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現在のサイバー攻撃は、AIを駆使し「マシンスピード」で攻めてくる。また、ビジネスとAIの統合が進み、企業が守るべき資産も広がっている。もはや従来の考え方や手法だけでは防御は難しく、セキュリティ概念のアップデートが必要だ。NECは、セキュリティをビジネスの成長を加速させるエンジンとしてとらえ、アーキテクチャの再構築を進めている。「NEC Cyber Day’26夏」では、Post-AI時代の新たな資産の守り方、セキュア開発・運用ルールの継続的な見直し、AIガバナンスとガードレール技術、脅威インテリジェンスを判断につなげる取り組みなど、NECが経験を通じて得た知見を紹介した。

求められるセキュリティ概念のアップデート

「もはやAIは“特別な魔法の杖”ではありません。電気やインターネットと同じように、使うのが当たり前のビジネス基盤です」とNECのCISO(Chief Information Security Officer)を務める淵上 真一は強調する。AIは単に業務効率化のためのツールにとどまらず、自律的に判断し、意思決定を行うようになっており、企業では、それを前提としたビジネスモデルへの転換が加速している。いかに安全かつ迅速にAIをビジネスに統合できるかは、企業の競争力を左右する重要な条件だ。

この変化は、サイバーセキュリティの領域でも起こっている。AIが当たり前の「Post-AI時代」を踏まえ、セキュリティ概念を根本的にアップデートしなければならない。

まず認識すべきは、攻撃者によるAI活用が攻撃の速度と規模を押し上げていることだ。「ターゲットや脆弱性の探索と発見、攻撃の多くのプロセスをAIエージェントが担っています。攻撃は『マシンスピード』で行われるようになり、脆弱性が発見されてから悪用されるまでの期間は短期化しています。そのため、侵入されてから攻撃を検知・対応するだけでは十分とは言えません。自組織のリスクをあらかじめ把握し、優先的に対処すべき対象を見極めることが重要です。Post-AI時代のセキュリティには、事後対応に加え、リスクを先回りして把握する運用が求められるのです」と淵上は言う。

守るべき資産が広がっていることも認識しなければならない。これまで主な保護対象だった物理サーバ、仮想マシン、PCやスマートフォンなどのデバイス、ネットワーク機器といった「静的なインフラ資産」に加え、AIモデルの学習データ、プロンプト、推論メモリ、AIエージェントの意思決定プロセスといった「動的・認知的資産」も重要な資産として適切にとらえる必要がある。

このような変化の中では、「資産の把握・管理不足」「脆弱性修正のリソースの不足」「従来型防御の有効性低下」「意思決定の遅延」といった問題が顕在化しやすくなる。それらに適切に対応するには「経営層のリーダーシップのもとで推進すること」「優先的に対処すべきリスクを見極めておくこと」「侵入後に素早く封じ込められること」、そして「限られたリソースを重大リスクに集中させること」が基本となる。

「例えば、リソース配分。考えられるリスクのすべてに等しくリソースを投入するのは現実的ではありません。事業継続の観点で重要な資産やリスクを見極め、そこにリソースを集中するべきです」と淵上は説明する。

また、資産管理の在り方は、根本から見直す必要がある。これまでは、資産をCMDB(構成管理データベース)に登録し、年に一度確認すれば十分とされてきた。しかし、AIによって脆弱性の発見が高速化し、パッチが次々と発行される環境では、常に最新の状態を反映した「動的な管理」への転換が不可欠だ。どの資産に、どのパッチを、どのタイミングで当てるべきかを即座に把握できる体制が、これからの守りの前提となる。

脅威の変化を受け、日本政府も対応を急いでおり、「Project YATA-Shield」と名付けた政策パッケージを打ち出し、攻撃の高度化・高速化への対応や重要インフラの保護強化を目的に、各組織向けのガイドラインや指針を相次いで示している。こうしたガイドラインや指針は抽象度が高く、各組織がそのまま適用できる具体策ではないものの、自らの環境に落とし込んで対策を考えるための基点となる。

3つのキードライバーでセキュリティを再構築

淵上 真一
NEC Corporate Executive CISO 兼 NECセキュリティ株式会社 取締役 淵上 真一
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NECは「ビヨンドゼロトラスト」「自律型SOC(Security Operations Center)」「アジャイルガバナンス」という3つをキードライバーと位置付けて、Post-AI時代に合わせたセキュリティアーキテクチャの再構築を進めている。

ビヨンドゼロトラストの中核にあるのは、AIエージェントを単なるツールではなく、自ら判断し、処理を実行する「自律アクター」と位置付け、人間の従業員と同様、あるいはそれ以上の厳格なID(アイデンティティ)管理下に置く考え方だ。NIST SP800-207/207Aが示す「決して信頼せず、常に検証する」というゼロトラストの原則の適用範囲をAIエージェントにも広げていくことが、Post-AI時代におけるビヨンドゼロトラストの出発点となる。

「ここで注目すべきは、AIエージェントが人間と決定的に異なる特性を持つ点です。AIエージェントは、人間の従業員と異なり、24時間365日、自律的に稼働し続けることができます。そのため、人間と同様のID管理に加え、セッションの有効時間やタスクごとの権限範囲など、AIエージェントの特性に応じた設計が求められます」と淵上は話す。

自律型SOCは、AIによる攻撃のスピードに対し、防御側もAIを活用するという考え方だ。検知・分析・封じ込め・復旧のサイクルをマシンスピードで回すことで、攻撃のスピードに追随し、被害の拡大を抑えることを目指す。ただし、自律型SOCの本質は、単なる運用の自動化ではない。増え続けるアラートや脆弱性情報の中から組織にとって重要なリスクを見極め、リスクベースで優先順位付けを行いながら、限られたリソースを最も効果的に投入することにある。AIがその判断と実行を支援し、人は最終的な意思決定と統制を担う。その実効性を測る上では、脅威の滞留時間や横展開までの時間をどれくらい短縮できたかが新たな指標として重要になる。

そして、アジャイルガバナンスは「ルールを決めて終わり」にせず、環境変化やインシデントに合わせて継続的に見直し続けるプロセスを指す。「セキュリティを経営アジェンダとして位置付け、経営層、法務、セキュリティ、事業部門が連携する体制を築くことが第一歩です」と淵上は言う。

その枠組みとして参照されるのがNIST CSF 2.0だ。同フレームワークでは、バージョン2.0から「GOVERN(統治)」が中核機能として新設された。「コンテキストの理解」「戦略の決定」「ポリシーと役割の定義」「サプライチェーン管理」という一連のステップを組織横断で継続的に回すことが求められており、NECは、この枠組みをアジャイルガバナンス実践の基点と位置付けている。

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これらの取り組みを実践する上では、過去のインシデントや運用経験から得られた知見を組織として蓄積するとともに、AI技術や脅威動向の変化を継続的にキャッチアップしていくことが重要となる。

「Post-AI時代のセキュリティに完成形はなく、研鑽と改善を繰り返しながら進化し続けることが、組織の競争力につながります」と淵上は強調する。

セキュア開発プロセスにAIを統合

NECのセキュリティアーキテクチャの再構築に向けた取り組みを、さらに詳しく見ていこう。

長年、NECはシステム開発の現場でセキュア開発に力を注いでいる。国際規格や各種基準・ガイドラインなどの外部の知見を取り込みながら作成したルール、そして、インシデント事例や市場動向、技術の変化を踏まえて強化してきた独自のルールをもとに、約400項目のチェックリストを整備している。さらに、現場のセキュリティ責任者も参加する2週間ごとの会議で、このチェックリストの見直しが必要な点などを共有しながら、セキュア開発推進体制の継続的な改善を積み重ねている。

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「400項目のチェックは、人によっては数日かかることもあり、項目数の多さが負担になっています」とNECの青木 聡が明かすように、運用負荷の軽減やセキュリティを理解できるSEの育成などが主な取り組みだったが、そのような取り組みと並行して、最近はセキュア開発プロセスへのAIの統合にも取り組んでいる。その一例が、AIを使った脆弱性診断の高度化だ。

「AIによって攻撃者による脆弱性の発見や悪用が高速化していることが背景にあります。着実に整備してきたセキュア開発体制を、AIを活用してどのように高度化するかが大きな焦点となっています」と青木は話す。

セキュア開発においてAI活用と同様に重要なのが、ルールを継続的に更新し続けることだ。理由の1つが、技術の「危殆化(きたいか)」への対応だ。暗号アルゴリズムの危殆化が典型例としてよく挙げられるが、ほかにも従来の対策やルールの前提が十分ではなくなっているケースはある。例えば、IDとパスワードだけを前提とした認証は、リモートアクセスの拡大に伴い、多要素認証を組み込んだ設計が求められるようになっている。

「既存のルールを守っていれば安全とは言い切れません。技術や攻撃手法、環境の変化に合わせ、ルールそのものをこまめに更新し続ける体制が不可欠です」と青木は言う。

青木 聡
NEC サイバーセキュリティ技術統括部長 青木 聡
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AIガバナンスとガードレール技術でAIリスクに対応

田上 岳夫
NEC サイバーセキュリティ戦略統括部長 兼 CISOオフィス長 田上 岳夫
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こうしたセキュア開発の取り組みと並行して、AIそのものを安全に利用するための対策も急務となっている。

AIセキュリティのうち「Security for AI」の領域では、AIガバナンスに関するポリシーを軸に、利用者と開発者に向けて、AIの利活用によって生じうるリスクを予防・解決するためのガイドラインを整備している。

ただし、AIを取り巻く環境は急速に複雑化している。守るべき資産は、AIモデルやLLM、学習データ、AIエージェント、それらを連携させるMCP(Model Context Protocol)などへと拡大し、多層化している。リスクも情報漏えい、システム改ざん、AIエージェントの意図しない動作、リソースの過剰な消費など多岐にわたる。

「単にガイドラインを整備するだけでは、それを徹底させることも、資産を守り抜くことも難しいのが実情です。入力制御や出力制御を行うAIファイアウォールをはじめとしたガードレール技術を活用するなど、運用だけでなく仕組みで対応することも大切です」とNECの田上 岳夫は言う。

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AIファイアウォールの評価・導入には、特有の難しさがあるため注意が必要だ。例えば、AIは同じ入力に対して毎回同じ結果を返すとは限らない。

「通常のソフトウェアであれば、同じ条件で同じ結果が得られることを前提に評価できますが、AIはそうはいきません。導入前の評価基準をどう設定するか、さらに導入後もどのようにチューニングするかが重要になります」と田上は言う。

また、自律的に稼働するAIエージェントの影響を、セキュリティ部門だけで見極めることも難しい。AIエージェントがどの業務システムに接続し、どのデータや機能を利用するのかを把握するには、業務システムをよく知るIT部門との連携が欠かせない。

「業務システムをよく知っているIT部門とセキュリティ部門が、密に連携しながら対策を考えることが重要です」と田上は部門を横断した協働の重要性を語る。

インテリジェンス駆動で脅威に先回りする

AIを安全に利用するためのガバナンスやガードレールの整備と並んで、マシンスピード化する攻撃に備え、実際の検知・対応現場でも高度化が進んでいる。そのカギとなるのが、CTI(サイバー脅威インテリジェンス)とSOC/MSS(Managed Security Service)をつなぐインテリジェンス駆動型のオペレーションだ。

NECが提供する次世代サイバーセキュリティサービス「CyIOC(サイオック)」は、脅威インテリジェンスを扱うCTIチームとSOC/MSSチームを隣接させ、両者が連携する「インテリジェンス駆動型」のオペレーションを展開している。AIによる自動化でアラート発生後の一次評価にかかっていた時間を短縮し、アナリストがより高度な判断に集中できる体制を整えている。2027年にはEU・米国にも拠点を新設し、日欧米をまたぐ“Follow-the-Sun”体制でのグローバル展開も計画している。

「マシンスピードの攻撃に対応し、被害を抑え込むには、攻撃の痕跡をいち早く見つけなければならない。見つけなければ守れない──。その考え方が根底にあります」とNECセキュリティの奥 隆行は言う。

そのSOCを支えるのは人材だ。「SOC事業を通じてNECグループ全体のセキュリティエンジニアのキャリアパスを広げ、多様なバックグラウンドを持つ人材が経験を積める環境を整えていくことが、インテリジェンス駆動型SOCの強化につながると考えています」と奥は続ける。

奥 隆行
NECセキュリティ株式会社 取締役執行役員副社長 兼 NEC サイバーディフェンス事業開発統括部 上席プロフェッショナル 奥 隆行
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セキュリティは競争優位性を確立するためのエンジン

これらの取り組みを通じてNECは、Post-AI時代のセキュリティアーキテクチャに関する豊富な知見を蓄積している。

なかでも象徴的なのが、AIが出した回答のとらえ方だ。「AIが入っていること自体が重要なのではない。どんなAIが、どんな情報をもとに判断しているかが重要」と淵上は強調する。奥はそれを「情報」と「インテリジェンス」の違いとして説明する。

「AIが出した回答は、最初はファクトかどうかわかりません。ただの『情報』です。何を根拠にして、どのように判断したかまで透明化して、はじめてファクトかどうかを判断でき、『インテリジェンス』として活用できると考えています」(奥)。

そのインテリジェンスの質を左右する要素として、奥は複数の情報源による裏付けと情報の鮮度を挙げる。

「例えば、マルウェアや攻撃に関する情勢は刻々と変化しています。1週間くらい経ったあたりから“もう一度確認しておこう”という感覚になります」と奥は言う。だからこそ、先に述べたようにCyIOCがCTIチームとSOC/MSSチームを隣接させているのは、蓄積した経験知と最新のインテリジェンスを日常的にすり合わせるためでもあるという。

この「鮮度」の考え方は、インテリジェンスだけでなく、セキュア開発・運用のルール体系にも当てはまる。

「以前のルール改定は、インシデントの発生や世の中の動向をきっかけとする『イベントドリブン型』が中心でした。しかし、これからはCISA(米国サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)など、関連機関の発信を迅速かつ適切に評価する体制を整え、セキュア開発・運用のルールに反映していくことを考えています」と青木は言う。

ルールの運用について、淵上は「ダブルループ」の考え方も重要だと付け加える。運用・点検・是正を繰り返す日々のループに加え、さらに大きな視点から、そのルールが今のままでよいのかを見直すループを組み合わせるのである。「2つのループを回すことで、アジャイルなガバナンス強化を実現できます」(淵上)。

完璧を目指すのではなく、リスクを見極めた上で、スピードを優先する姿勢も経験を経て得た知見の1つだ。

「現在の攻撃のスピードを考えると、100点を目指している間に被害が拡大してしまう可能性がある。何を最優先で守るべきかを見極め、すぐに手を打つことが大切です」と田上は言う。

そして、何より重要なのが、AIのリスクを恐れて、その力を削いでしまうのではなく、AIをビジネスに活用し、競争力を高めるという目的を見失わないことである。

「Post-AI時代のセキュリティは、ブレーキではなくイネーブラーです。NECは、セキュリティをAIのポテンシャルを引き出し、競争優位性を確立するためのエンジンととらえ、実践を通じてセキュリティアーキテクチャを進化させていきます」と淵上は最後に強調した。